羅紗バサミ
もちはる

真夜中に音がする
引き出しからだ
起きてそっと確かめる
羅紗バサミの刃が開いている
力を持て余していたのか
鈍く光り出番を待っている
シャキリシャキリと
衰えていない音

亡き父は
厚い布の他に
何を切ったのか
刃を広げていねいに研ぎ
油を浸み込ませた布で拭き
ふーと息をかけ 陽にかざし
「子どもはさわるな」と
そっとしまった

とうに扱いに慣れたわたしも
厚い布の他に
切りたいものがある
シャキリシャキリ…
空切りしながら
厄介な顔をうかべながら
なおもついて回る
あの縁を

二枚刃が哂う
「錆びていませんよ
 切れるものなら
 なんなりと…」


自由詩 羅紗バサミ Copyright もちはる 2019-09-02 19:28:19
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