夏椿
丘白月


ふと思い出すことがある
夕日に染まる街も
カモメと一緒に帰る船も
羽衣のようなひこうき雲も

誰もいなかった遥か昔
僕ら二人はあの
夏椿だったんだと

僕は枝 君は花
白く美しく咲いて
短い夏を命がけで過ごして
風と語り
鳥に休息を与え
雨に感謝して
一つの魂を分けあって

妖精が許すだけの
季節を見てきた

真夏に雪のような花
溶けていく君を
僕は拾えなかった

一緒に眠ることしかできなくて
愛のない樹は枯れると
妖精が言ったのを
いまでも思い出す



自由詩 夏椿 Copyright 丘白月 2019-07-12 21:21:33
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