その夏のベンチ
末下りょう

その夏 市民公園の木陰のそばにひなたのボッコちゃんは揺れていて たくさんのセミが鳴いていた
市役所か噴水のあるほうから水戸黄門の替え歌が聴こえてきて ぼくは長澤まさみとガチャピンがあいまいになっていくようなラヴェルのボレロのなかに微睡み ガーデンベンチには熱風が吹き抜けた
わらび餅をうっかりこぼした日陰は ぷるんぷるんした光をゆっくりと吸収して明るさのなかに溶けていった ペリカン石鹸の残り香がつるつると肌からすべりおちて 足早に通りすぎる背の高い女学生の脇汗が世界を透き通らせていくと
たくさんのセミの鳴き声といっしょに ひなたのボッコちゃんも眠たげに吹き抜けていったままの夏


自由詩 その夏のベンチ Copyright 末下りょう 2019-06-25 17:56:57
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