リフレイン
ワタナベ

リアシートの女が
もたれかかる窓には
人々の行き交う街の喧騒がうつり
それが音もなく流れてゆく
目を閉じても
ネオンの原色が
まぶたの裏に繰り返し焼きつく
鼓膜を揺らすウッドベースの心地よい重みが
全身にかかって
リアシートに埋もれる女

立ちこぎで坂道を登ってゆく
その頂上からはこぼれるほど青いそらが広がり
冬の余韻を残した風が全身をなで一息にとおりすぎる
最後に
ちからをこめてペダルを踏みつけると
そらよりも青いいちめんのいちめんの海
呼吸に合わせて
イヤホンから流れ込むウッドベースは心地よくはずむ
かすかな潮の香りが
深呼吸するたびに
大気に混じって入りこみ
指先からつま先まで満たされてゆく

古びたウッドベースの弦は無く
くりぬかれた黒いすきまを覗けば
かすれたアルファベットの文字と
たまった埃
ただ、そのままじっと目をこらしてご覧
暗い空洞に
節くれだった太い親指が見える
次にしわだらけの黒い手の甲
腕の筋肉が繊細に
そして大胆に動く
くたびれた椅子に座った大きな影が
上体を前後に揺らす度に
ウッドベースは心地よくはずみ
心臓をふるわせる低音が聴こえてくる

窓を流れる街の喧騒を忘れ
リアシートの女は眠りに落ち
うち寄せる潮騒の波間をただよう
弦の無い
古びたウッドベースの音色


自由詩 リフレイン Copyright ワタナベ 2005-04-01 09:14:18
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