姥捨車
イオン

「だから、おじいちゃん、もう運転免許返納しなよ」
「大丈夫だ、50年前ハコスカで
 峠を攻めていたじいちゃんを、なめるんじゃねえ」
「ランクルからプリウスに乗り変えた時
 もういい年だからって言ってたよね」
「あぁ、年齢に似合うクルマということだ」
「あのさ、ネットではあのクルマ
 プリウスミサイルとか言われているんだよ
 今、高齢者ドライバーはテロリスト扱いなんだよ
 その自信は確信犯の自信と同じなんだよ」
「ひどい扱いだな」
「事故を起こしたら、もっとひどいんだよ!
 ボクら親戚はこの町で生きていけなくなる」
「そうだけどな、クルマを取り上げられたら
 じいちゃんはこの町で生きていけなくなる
 あぁ、まったく、新聞に書いてあったけど
 歩けるまでの、乳母車
 歩けなくする、姥捨車とは
 よく言ったものだな」

「なぁ、おじいちゃん、クルマに毎月いくらかかってるの?
 維持費に3万、次に買うために2万の貯金としたら
 だいたい5万円ぐらいだよね?」
「まぁ、それぐらいだなぁ」
「タクシーで1キロ5百円とすると100キロ走れるよね
 隣町のスーパーまで往復20キロだから毎月5回
 買い物に行けるんだよ」
「あぁ、そうか、でもその度に
 目の前でお金が出ていくのは、もったいないなぁ」
「それならクレジットカードで払えばいいよ」
「現金主義だから嫌だな
 というよりクルマが好きなんだよ、大切な趣味なんだよ」

「それなら、おじいちゃん、クルマの愛好家として
 プリウスミサイル危険注意とか言われてどうよ?」
「オートバイのほうが危ないだろう
 お前のほうが先に、オートバイに乗るのをやめるべきだ」
「あぁ、ボクはオートバイを悪く言われたくないから
 事故に遭っても安全なように
 肩、肘、膝、背骨、胸と5種類ものプロテクターを付けて
 更にヘルメットもレース用で
 事故を起こさないよう、無理なすり抜けもしないよ」
「それは、臆病だからだろう、情けない」
「違うよ、おじいちゃん
 怪我がひどければオートバイを悪く言われるからだよ
 悪いのは突っ込んできたクルマでもだよ!
 プロテクターは格好悪いけど
 それで軽傷ですめば、また乗ることができるだろ」
「そうか、そうだな」

「だから、おじいちゃん、本物のクルマ愛好家なら
 クルマを貶められないようにするべきだろ」
「そうそう、そのうち自動運転になってくれるから
 それまでの辛抱だ、我慢してくれ」
「いったいどういう我慢なの! よく考えてみてよ
 ブレーキ踏んだのに止まらなかったとか
 自分も犠牲者だとクルマのせいにするけど
 勝手に走るクルマは、まだ作られていないんだよ
 我慢するべきは、おじいちゃんでしょ!」


自由詩 姥捨車 Copyright イオン 2019-06-08 10:35:37
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