水面、ってテも、なくはないし。
ホロウ・シカエルボク


斑模様、太陽の光の中を泳いで、やがて反射に隠れて見えなくなる、アスファルトからの熱と昨日の雨が化ける湿度で、俺たちは蒸されてまともな感覚を失くしている、夏には夏の、冬には冬の狂気がある、人は誰もそれを自分が生み出すものとは考えない、酷く暑かったから、寒かったから、ゲリラ豪雨にやられたから、新しく舗装された車道の色がそこだけ違ったから、挙げようと思えば言い訳は無限に挙げられる、ほんの気まぐれのようなものだ、予防したり改善したりなんて到底出来っこない、なのに、メディアでは誰もがそうすることは必ず可能なのだみたいな顔をしてまことしやかに語っている、真実を知っているものこそ疑え、これは大昔から言われてきた定説だよ、君、確信を持っている人間は、とくにそれを声高に語ろうとする人間は、本当はなにも知ってはいない、ただ蓄積した知識によって結論を持つというプロセスに酔っているだけの阿呆だ、考えてもごらん、はるか昔からああだこうだともっともらしい口をきく人間がたくさんいる、絶対にそうしたほうがいいんだよとしたり顔で話す人間がたくさんいる―彼らのおかげで世界は良くなったかね?答えなんて考えてみるまでもないだろう、そうした人間にはどんな力もありはしないのさ、俺はそのことをよく知っている、君はどうだ?余所見をするんじゃない、君が本当にしなくちゃいけないことを懸命にやるべきさ、俺には君と話をする余裕なんかない、自分自身を生きることに忙しいからね、なあ、こんな風に言うといろいろな誤解を受けるかもしれない、ただ君らが大事だと思ってるいくつもの物事が、俺にとっちゃどうでもいいっていうだけの話なんだよ、俺は誰のことも否定しないし、肯定もしない、どうぞ、ご勝手にと俺のフィールドからご退場願うだけだ、君が俺にどんな意見を持とうが、俺のパーソナリティにとっても、こんなふうに並べられる俺の戯言にとっても、まったくなんの関係もないっていう話なんだよ、君、って俺は呼びかけてる、如何様に解釈して頂いても構わない、こんな言い方をすると友達を失くすこともある、でも俺と友達で居続けてるような変り者は、俺がこんな話し方をする理由をちゃんとわかってる、だから俺はなにも心配していない、好き放題書くことが出来る、いいかい、思想が思想のままばら撒かれたならば、思想のないものにそれが理解出来ないのは当然のことだ、そういう人間がどんな愚行を侵すか知ってるか?わかる言葉だけピックアップしてそのすべてを否定するのさ、そういう行為が正しいって本当にそう思ってるんだ、俺は最初ふざけてるんだとばかり考えていたんだけどね、なにもわからない馬鹿の振りをしているんだって、でも、しばらく見てるとだいたいわかるんだ、ああ、こいつは本気でそう思ってるんだ、ってね、おそらく俺くらいそういう目にあってきたやつもそんなには居ないと思うよ、なんたって住んでる場所が場所だからね…タワーレコードが十年足らずでなくなっちゃうようなところなんだから、本なんてコンビニの棚だけで事足りるのさ、だから大きな本屋もない、こういっちゃなんだが、たったそれだけの文化なんだ、いつまで経っても同じ景色が続くのも仕方のないことさ、いまは少し楽になったよ、クリックするだけで買物が出来るようになったからね、屋根の上のヴァイオリン弾きって知ってる?ここに住んでるとあの舞台の台詞を思い出すんだ、鳥と魚が結婚したとする、どこにスイートホームを作るんだ?っていう台詞さ、怖ろしい台詞だぜ、待っているのは溺死か転落死、あるいは完全な喪失だ、俺は時々日常を歩きながら、あの台詞のことを思い出すんだ、そうして喉のひどい渇きを覚える、そりゃあ、どこに行っても同じかもしれないよ、だけど、俺、大きな本屋がある街には友達がたくさん居るんだ、なんだかんだでバランスは取れてるんだ、もちろん、日常を謳歌するくらいのバランスってことさ、生きることと環境は関係ない、もちろん、自立してからはって話だけど、俺は周りのせいにはしないよ、すべて理解した上でそういう人生を背負ってる、距離の取り方を覚えたら誰を殺す必要もないんだけどね、何人かの殺人者にはそのことを教えてやりたいと思うこともあるね…明かりを消せば少しは涼しい思いをすることも出来るけど、休日の夜は寝つきが悪くてさ、ついこんなことをして遊んでしまうんだな、まあ、べつに、こんなこと書いたからってぐっすり眠れるってわけでもないんだけどね、むしろ、テンションがあがっちゃって余計眠れなかったりするよ、だけど、そういう時の眠れなさっていうのは不快なもんじゃないからね、ねえ、俺はさ、誰にでも共感してもらえるようなものなんか、書きたくないんだよ、そんなもの書いたって仕方がないじゃないか―なにかさ、わけのわからないことばっかり考えてさ、ひとりになれるところばっかり探してる、そんなやつらが面白いと思ってくれりゃそんなもんで満足なのさ、もちろん、俺自身が満足することが一番大事なんだけどね…俺は鳥でも魚でもない、選択肢はきっともう少し多いはずだぜ…。



自由詩 水面、ってテも、なくはないし。 Copyright ホロウ・シカエルボク 2019-06-03 00:44:23
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