らぶ
秋葉竹

少女がいま黒い部屋でしずかに笑っているのは
そこに活けられた中原中也が枯れているからです

中原中也は季節に追われ
小さな窓から見える春の風に憧れたのですが

羨ましいとは言いませんでした

空から陽はあとからあとから降り注ぎ
世界はじっとしても生き生きもしていますが

羨ましいとは言いませんでした

そして中原中也の小さな命を守るために少女は
なんともつまらない約束をしてしまいました

顔も髪も胴体も手足も
明るい空のもと
やがて捻れるような奇妙な雲を眺めて

未来には心を除く全ての自分が捻れるので
心だけはなにがあっても笑っていましょうね

少女はとっくに終わってしまった昨夜
夢の架け橋にただひとつの希望を置いて

中原中也の魂といっしょに揺蕩うのです
それだけは忘れることのない

らぶって想いの強さもある意味
縛られる縄のようだと知ってもなお

悲しげに寂しげに笑う少女を
楽しげに儚げに笑う少女を

みつめあう瞳がふたりっきりの夜を
過ごすことを選ぶのでしょう?

ええ、もう、それはそれは、
好きですからってね。








自由詩 らぶ Copyright 秋葉竹 2019-05-25 08:42:23
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