らぶ
秋葉竹
少女がいま黒い部屋でしずかに笑っているのは
そこに活けられた中原中也が枯れているからです
中原中也は季節に追われ
小さな窓から見える春の風に憧れたのですが
羨ましいとは言いませんでした
空から陽はあとからあとから降り注ぎ
世界はじっとしても生き生きもしていますが
羨ましいとは言いませんでした
そして中原中也の小さな命を守るために少女は
なんともつまらない約束をしてしまいました
顔も髪も胴体も手足も
明るい空のもと
やがて捻れるような奇妙な雲を眺めて
未来には心を除く全ての自分が捻れるので
心だけはなにがあっても笑っていましょうね
少女はとっくに終わってしまった昨夜
夢の架け橋にただひとつの希望を置いて
中原中也の魂といっしょに揺蕩うのです
それだけは忘れることのない
らぶって想いの強さもある意味
縛られる縄のようだと知ってもなお
悲しげに寂しげに笑う少女を
楽しげに儚げに笑う少女を
みつめあう瞳がふたりっきりの夜を
過ごすことを選ぶのでしょう?
ええ、もう、それはそれは、
好きですからってね。