恋人
メープルコート


 夢のように横たわる貴方と交わす言葉。
 刺激という感覚を忘れてしまった。
 今はもう安らぎの彼方に浮かんでいるのか。
 どうか私の空虚な言葉は連れて行かないで。

 貴方の愛したピアノソナタが幸せの色彩で辺りを包んでいる。
 魂は飛翔してあの思い出の丘の上を瞬きもせず飛んでいるのだろう。
 私はこの一切の行いが終わったら一人、あの山麓の村に旅立つだろう。
 互いの結びつきを強く感じて。

 淋しさの多いこの世の中で。
 悲しみに満たされたこの世の中で。
 それでも希望に溢れているこの世の中で。

 貴方と出会ったあの場所に今年も菜の花が咲き誇っている。
 貴方の好きだったキスゲの花を一輪枕元に置こう。
 そして最後に一度だけ貴方と頬を合わせるよ。
 

 
 


自由詩 恋人 Copyright メープルコート 2019-05-03 02:38:14
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