降り来る言葉 LXIX
木立 悟
夜の蒼のなか 点滅する灯
赤と白と 碧の建物
鉄のかたちが
径に横たわる
夜のなかの夜を見すぎて
暗い泡が浮かんでは消えない
目を閉じたまま何を視たのか
痛みの飛沫は去ってくれない
低い光を
音の曇がさえぎる
夜の門をひたす液体
無我と鉛の色の液体
空の子供が空を手わたし
桜の子供が桜を手わたす
雨の子供が碧に微笑み
金の子供と手をつなぐ
傘を忘れ
音の水を踏み
冷たい手足に
言葉は降る
雨の器 ひらいた口
横一線の 午後の筆
灰と虹の
夢の螺旋を見つめる
ひとつの樹に群がり
喉の奥の谷と山脈を
光の子ら 光の子ら
のぞきこむ のぞきこむ
名前は? 忘れた
言葉は? 忘れた
まあいい けして
消えはしないのだ
そそぐ水そそぐ水
逆さまの空のうた
またひとつ忘れた
とりかえそうか いや
また 降るだろう
小さな羽のあつまりが
小さく応えひらきゆく
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