口外しては
こたきひろし

口を裂かれても言えない事はある
もし
口が裂けたら言える筈はないのだが

時間はさかのぼる
空間は移動した

時代は戦争に飲み込まれていた
侵略と略奪
無慈悲な殺戮と暴力

殺されるか
殺して生き延びるかの極限だった
兵士は地面を這いつくばった
這いつくばりながら銃をかまえた

草も木も戦火の犠牲になった
蛇や動物は兵士の飢餓を癒やした

村は襲われた
死んだ兵士も生き返り
戦争犯罪に加担した
放火した
略奪した
暴行した
虐殺した
レイプした

神は傍観していた


俺の父親は関東軍の上等兵だった
叔父は南方の島で玉砕して死んだ

父親は生きて返り
戦争について
一切語らなかった



自由詩 口外しては Copyright こたきひろし 2019-04-16 07:00:46
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