ほくろ
黒田康之

おまえの右の手のひらには小さなほくろがある
小指の根元のふくらみのちょうど麓のあたりにある
おまえの手には悲しみが五つ
行き場のない方向へ伸びていて
細い消え入りそうな悲しみで
おまえは僕の腕をつかむ
その握力はおまえの体温になって僕の腕から
沁みとおって
僕の皮膚以外のすべてを染め抜いてゆく
いつの間にかおまえの目には僕の体温が宿り
大きなそのガラス玉は熱を帯びて何かを見ている

おまえの手のひらの小さなほくろは
太陽になって、その奥に僕もおまえも
その他のすべての生き物が棲み
おまえが息をするたびに 僕らは同じように息をする

   《沈黙》

瞬間の無言はおまえの中にある世界の息遣いになって僕の耳に届いた
おまえの小さなほくろからは
どうしようもなく本当の世界が
今、あふれ出そうとしている

今日という日に限って、おまえは窓を見上げて
今日という日に限って、おまえはセツナイ生き物であった。


自由詩 ほくろ Copyright 黒田康之 2005-03-30 19:00:30
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