文字や言葉メ
ツノル


その男は言うだろう。
「べつに文字や言葉を売ろうとしているわけではない。わたしの才能が売れているだけだと‥
‥。きみ、賞をもらって何がわるい。受賞すれば履歴に肩書きが付いてくる。肩書きが付けば仕事の依頼も増えてくる。つまりだ、お金を稼いで何がわるいと言うのか。稼げばその分だけ生活も楽になる。それは才能に見放された、稼げない輩の嫉妬に過ぎないんだよ。」
、、その通りだと思った。
稼げる人間が、お金を増やしてわるいと言える理由もない。
これは単に嫉妬心から出てくる言葉なのか。あなた方からまったく認めてもらえないという嫉妬心から。
その日晴れた午後の祝祭日に、車から降りると遠い山々の景色を眺めていた。
季節ごとに色を替える山々はけっして動かない。いや、動いている。気づけないだけで実は少しづつ大地とともに動いているではないか。同じようにすべての物事には力が働きかけているのだ。
この車にも名称はある。街でも多く見かける人気のある車だ。
人々は少しでも手間を省こうと屋上の駐車場には停めないが、眺める雄大な景色と潮味を引き連れた浜風が、わたしにはたまらなく快感に覚えてしまう。
さあ、これから夕飯の買い物だ。
言葉にもならない風を、おもいきり吸い込んでは吐いた。
一応黒い財布の中身を確かてみる。お札は足りるだけちゃんと収まっていた。
扉を開け階段を少し降りたところで身なりの派手な女性とすれ違う。
見た目の年齢にしてはかなり短めのスカートだ。ブランド物の黒いバッグを抱えヒールの底から薔薇の薫りが漂ってくる。
流し目で、互いにちらりと視線を交わした。
自分を売って何がわるい。
わるいのは、後始末で味わうことになる。その気持ちの持ち方だろう。
文字や言葉だけでは売り物にもならない。
独り言があたまを巡り、颯爽と階段を降りて行った。







自由詩 文字や言葉メ Copyright ツノル 2019-03-27 12:42:27
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