紙の湖
Seia


本を開いては
単語をつまんで
床に落とす

カナリア
使い古された鳥の名前よ
名前を忘れて
休むといい

石鹸
もう何も泡立てることなく
しろい体を
確かめたらいい

花火
光の羅列を並べ替え
静けさを
取り戻すといい

鏡のように磨かれた
床に転がるいくつかが
ずしゃりと
自身の重さに耐えきれず
かたちを変えて崩れていく

ピアノの音がすれば
ピアノとは何かという
ピアノと背表紙に書かれた本を開いては確かめる

トラックが後ろから強風を運べば
トラックとは何かという
トラックの表紙が描かれた本を棚から取り出す

大根を一本買えば
大根とは何かという
大根と刻印された本をめくりめくる

本棚が動けば
部屋は拡張され
蔵書も増えていく
いつまでも続く整理整頓

ところで
いまなにをみましたか?
(棚から単語が落ちるところを)

反逆者は
本から本へ
移り住む
紙魚のように
飛び跳ねて
波紋を残すだけ


自由詩 紙の湖 Copyright Seia 2019-03-24 22:50:00
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