幻肢痛
言狐

朝焼けが出る少し前に、忘れられない思い出をひとつ捨て
それが朝日に溶けるのを見届けてから仕事に行くのが日課だ。
そうすることで、ぼくは大人になった。

だけど最近、夜遅く。
自分の体が暗闇に沈む頃捨てたはずの思い出たちが
がりがりと皮膚を引っ掻いてくるような感覚がする。
捨てたのだから、そんなはずはない。
けれど、確かに痛かった。
捨てたはずの思い出たちに傷つけられ
流れた血の色を、ぼくは必死に見ないようにした。


自由詩 幻肢痛 Copyright 言狐 2019-03-23 10:44:50
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