選択
ツノル


不幸とはある日突然やってくるものでもない。
わずかな年金生活で独り暮らしをしていた老人がとうとう動かなくなった。
そして私に「メール」を送ってきた。

「生きる価値もないのなら死ぬ価値もないというのか。ならば、生きる権利があるならば死ぬという権利をよこせ。安楽死という選択に同意してくれ。」と、いうのだ。

親兄弟の居ない老人は生活苦に喘いでいた。孤独に耐え、孤独をもてあましていた。
きみが唯一身近な友人だから、同意書に署名してくれというのだ。

「それで後悔はないのか?」という短いメールを添えて、わたしは書面にサインと印鑑を捺した。
彼は重篤な病を患っていた。
夕暮れとともに彼は背を羽ばたかせ、
「その選択を取り上げろ、、」
、、耳元で悪魔が囁いたような気がした。









自由詩 選択 Copyright ツノル 2019-03-10 22:21:45
notebook Home 戻る  過去 未来