マーチング・マーチ
大村 浩一

 季節の名を呼ぶな。白紙のような、はじまりのような、実際にはでたらめの
地誌。そんな緯度にバビロンは無いぞ。想像上の怪物、あなた。私はすぐに忘
れてしまう、砂粒のようで、出かけようとしている、広がる3月朝のデジタル
マップ。張りつめた、雪の消えた、はじまりのような。塵芥の無い、スカンジ
ナビアのイメージ。
        長城のうちがわで、囲まれた遺物が反響する/風化する。私
は手に負えない。積み上げられた本はそれら自体も砂粒のようで、読んだもの
も、読まれないものも、読んだのに忘れたものも、読まれないまま忘れられて
しまうものも、砂山の地滑りのように裾を広げながら、あなたは裾を広げなが
ら、(そんなことあり得ない)その上を這う小さな蟻のイメージ、
                             「われら」と
呼べるものは無い、彼は大切なことをすぐに忘れてしまう。彼は砂粒のようで、
私は砂粒のようで、未明の嵐の部屋を閉じこめ、シャワーの前の、抹殺の前の、
あなたの匂いを思い出しながら(部分は部分でしかなく)、社用車を壊したと
責められ、私のうちがわは囲まれた砂嵐のようで、私は砂粒のようで、小さな
蟻のようで、こだまする/酸化する。昨夜の物思いは砂嵐のようで(私は手に
負えない)、テレビの空きchの砂嵐に父を見てしまつた、
                         黒砂、黄砂、白土、赤
砂地。私は砂粒、出かけよう、私は進路でいて退路であって、皆ここを交通し
た。見えないいいや確かに見た、私は忘れない、なのに忘れてしまう、役に立
たないところばかり覚えている、フラグメンタル、白いうなじ、靴下とあしく
び、フラグメンテーション、修正は不可能。マッチを使い切るまでは役に立っ
た(私は此処を出ます)、終の住み処、何か始まる前の、何も始まらなかった
まま、置かれたままに暮らした部屋、シャワーの前の。抹殺の前の。済んだ空
気の、雪の消えた、3月朝のデジタル・マップ。(皆ここを文通した)この後
の破綻など忘れたように巣分けの羽蟻。人が自分の死など忘れているように。
(そんなことはあり得ない)バラトン湖畔で力尽きた攻勢、母駅へ、福原京へ、
バルパライソへ、(私は手に負えない手負いの大熊、)靴には大粒の砂が入っ
ていて、出掛けよう、出かける他は無いから、もう出掛けよう。


2003/03/15 初稿
2005/03/27 Ben's cafe朗読のため部分改稿


自由詩 マーチング・マーチ Copyright 大村 浩一 2005-03-28 18:32:36
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