最新の手紙
ドライ運河

ひたひたと湿り気を帯びた風が前髪を揺らしている
地肌にまとうスワジランド製の毛並みは
大脳真皮質の保護という役目を終えて
政治家をイミテーションする
我執をはらむパッケージとして
リングサイドに胡坐をかいて三十余年

末端神経がおびえて閉じこもる
凍えてかなわない網走のエントランスで
失われゆく細胞の一片を掬い取り
零れさすまいとよたよた慌てふためく
俺の姿はまるで高砂部屋のチャンコの具だ

もしかしたらもしかして
かもしだしたカモノハシ

しめやかに一句詠みかけたのは北綾瀬から綾瀬に伸びる
線路脇の路傍のうえ
そこではまさしく強盗としかすれ違わない
取り返しの付かない記憶の断片がふいに襲いかかり
答えのない呼び声に耳をかたむけている

(東京海上日動ってどういう意味)

経口補水液を内ポケットから取り出して
おもむろにいちびった桟橋のクロソイドカーブを抜けたら
奇跡的に化石になってたゆたう霞ヶ関の淡水域で
貸しボートを繰りマウ・ピアイルックのふりをした
ニューデリーの朝焼けを望んだ
カラスとねずみときみとカタツムリたちと
たくさん見てきた

たくさんの話したいことが立ち上がってきた矢先
不適切な関係を結びたがる胸のうちを明かす前に
冬は覚めちまって
掘りごたつ みかん しなちく
甘酸っぱい耳の裏のにおい
なくしちまったのは
水かきと面直し砥石なんだよ


自由詩 最新の手紙 Copyright ドライ運河 2019-01-20 15:43:40
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