一匹の、鬼の世界に、降る雪は
秋葉竹
鬼というなら
心が欲しい。
なにひとつとして
たにんを気にせずいられる
欲しいものは欲しいといえる
安易で強引な欲望を
この無神経な腕で、掴みとれる
鬼が持つべき
心がほしい
孤りになった
凍てつく席で
冗談じゃない、と
強がるしかない。
座ったままでも
石として
心を持たない鬼として
火傷をおうほど
狂った火力で
やつれた希望を
焼き尽くす
雪が降る
雪が降る
しんしんと
降り積もる
鬼さえ埋めるわざわいの雪
雪が降る
雪が降る
あたしの頭にある角は
人刺し殺す獣の武器
あたしの心をもてあそぶ
やつらを殺す切っ先なんだ
苛立ちだけをあたしの胸に
残して何処へ消えたのか
悲しみ蒸留する酒みたいな
透明な切り傷、残して去った
鬼というなら
心が欲しい。
ふるくて白い
雪の道
歩く心をもてあそぶ
微笑み欠片もない世界。
苦悩にまみれた心の棘を
ふり払い立つ傘の中には
あたしと舞う風、咽び泣く
ただ声さえも、凍りつく
悲しみ色も純白だから
どうにも見分けがつかないんだ
なにもできない事実の果てに
心臓をえぐりとられた孤独の鬼は
ながく楽しませてくれて錆びている
風吹く公園のブランコの横で
揺れつづける運命の鎖を
えんえんとえんえんと
眺めつづけていたんだ
人も獣も、おだやかに眠っている
古くて懐かしい、
雪降る世界の片隅で。
夜もなく、朝もなく、
ただ気持ちの続く暖かな声で
聴いたことのある、だが、
調子っぱずれな歌を
真剣に聴き、真似をしてかたるなら
その歌は、まよなかの命となるだろう
声もなく、怒りもなく、
雪原最後の罪人となる覚悟を固めて
そして世界を
真白に
覆う