触れ合う
帆場蔵人

右の頬を叩かれ
左の頬も叩かれ
まったく叩かれてばかりだ
女に叩かれ振られ
男に目つきが悪いと叩かれ
ふらふらして肩がぶつかり叩かれ
まったく叩かれてばかりの人生だが
ぼくだって毎日地球を叩いている

歩いて、走り、たまに密やかに
人知れず踊ってみたりする
そうすると地球が叩き返してきて
鼓動は高鳴り、どこまでも飛べそう
しかし雨だ、雨が降ってきて
百万回は叩かれて
ふらふら
肩がぶつかり叩かれる
あぁ、まったく上手く出来ている

ひとは大地を耕し、牛馬が草を食む
工場地帯の黒雲はいつか嵐を孕むだろう
生命は叩き叩かれ、どんどんと草木の芽は
息吹いてゆき、密かに交わされる密談が
マンホールの蓋を揺らして、ひとが落ちる
まったく上手く出来ている

ふらふらしてたら
だれかにそっ、と抱擁されて鼓動が
打ちあい、心臓の歌が聴こえた
下水道やそこに生きるどぶネズミの糞
街かどでだれかが無造作に咀嚼するパン
死にゆくひとの吐息から
指さきにふっ、と止まる
秋茜のように
ちろちろ、萌えて掠れて
ひゅるりら、ひゅるりら、流れ
流れ、流れて、雪崩れ、泣かれて
心臓はなる、歌え心臓、耳を地に落とし

あまり無造作に地球を
抉らないでくれ、奪わないでくれ
垂直に地球を見下している
ぼくらが言うことなのか
あぁ、わかっている同罪なんだ
なんもしてねぇ、からさ
だから、せめて優しく叩いて
叩き返されよう、それは抱擁になるのか?

昔の偉い方が
右の頬を叩かれたら、左の頬を
差し出しなさい、などと言われたので
叩かれてばかりなのである
そんなわけでぼくはちぃ、と
ばかし馬鹿になってしまい
馬鹿だから、とりあえず悪賢い考えも
浮かばない、人畜無害なやつに
なってしまえたら、どんなに幸せだろうか

優しく頬を叩きたい、叩かれたい
いつだってそっ、と差し出すのだ


自由詩 触れ合う Copyright 帆場蔵人 2018-11-01 20:15:42
notebook Home