ジャンケンを
こたきひろし
ジャンケンなんてしなくなっていた
それはすっかり大人だから
もう子供には戻れないから
ジャンケンなんてしなくなっていた
もう鬼ごっこはしないし
できないし
かくれんぼは
どこにも隠れる場所がなくなってしまったから
ジャンケンなんてしなくなっていた
ジャンケンなんてしなくても
一日は始まるし
一日は終わるから
その頃、僕は高校生だった。
あの日最後の授業が終わると担任の先生に呼ばれた。
お前帰りがけにみさよの家によってこれを渡していってくれ。
近所だろ、と言われて封書を渡された。なかみは手紙のようだった。
担任はまだ若くて結婚していなかった。
「何ですかこれ?」
僕は怪訝な思いを感じて訊いてみた。しかし担任は何も答えなかった。訳ありを僕は察してそれ以上は訊かなかった。
みさよは僕の幼馴染みで初恋の相手でもあった。けれどお互い成長するにつれて何となく疎遠になっていた。それでも地元の同じ高校に進学してはいた。
でもクラスは違っていたから、担任でもないのに何だろうと不思議に感じたのだ。
「谷垣、
今日休みだったんですか?」
僕は続けて訊いた。
すると担任は「ああ体調を悪くしたみたいだ」
と言った。
「わかりました。帰りに寄って届けます。」
僕はなぜか悪い予感と複雑な思いになりながらも引き受けた。
それから学校前の停留所からバスに乗り家の近くで降りた。
そして谷垣みさよの家に向かって歩いた。
みさよの家に近づくにつれて僕の心臓は尋常ではいられなくなった。
みさよとは幼稚園もいっしょ。小学校もよくいっしょに遊んだ。
時にはふざけてじゃれあってキスしてしまった事もあった。
なのに中学の頃から距離が生まれてしまったのはなぜだろう。
小さい頃二人でよく遊んだ家の玄関の前に着いた。
直ぐには呼び鈴を押せなかった。何度も躊躇ってやっと押した。
みさよの両親は共に働いていた。この時間は家にはみさよ一人しかいない筈だがわからない。
一人だとしたら警戒して出て来ないかもしれない。第一具合が悪くて休んでいるんだから寝ていて起きてこれないだろう。
簡単に引き受けたけど僕はかなり不安になった。
しばらくしてみさよの懐かしい声がした。ドアが少し開けられて彼女が顔を覗かせた。僕の顔を見て驚いた様子を見せてドアを大きく開けてくれた。
しかしみさよの顔には体調の崩れけしては感じられなくて意外だった。何となく心の疲弊は感じたが、僕は何も言わなかった。
「これ、僕の担任が渡してくれって」
僕は直ぐに用件を告げた。
鞄の中から手紙らしき封書を手渡すと、それをその場で開封して読んだみさよの顔色が一気にかわった。
僕はそれを見てもうそこには居てはいけないと感じた。
「たしかに渡したよ。じゃあ帰るね。
とドアを締めた。
直ぐには立ち去れなく外で様子を伺うとドアの向こうでみさよの泣く声がした。
僕はとても居たたまれなくなり自分の家の方に歩きだした。
みさよに何があったかわからない。知っても僕にはどうにもならないし、かかわりもなかった。
待ってとおるくん。後ろからみさよの声がした。
立ち止まり振り返ると彼女の顔には涙を拭い去ったあとが残っていた。
「とおるくん。私とジャンケンしようよ。私たちまだかくれんぼが終わってなかったでしょ。その続きをこれからしようとみさよが言い出した。
僕はその言葉にとても困惑したが、いきなりみさよが出してきた右手にチョキを返してしまい負けて鬼になってしまった。