京橋にて
大覚アキラ

徹夜明けにバスに揺られながらウトウトして
ふと見ると妙に見覚えのある景色
昔住んでいたマンションのすぐ近く
バスはぼんやりと信号待ちで停まっている

寝坊して何度も走った駅までの道
新作はいつもレンタル中の小さなレンタルビデオ屋
愛想のないおばちゃんのいる弁当屋
子猫を拾って帰った裏通り
冬になるといつもホットココアを買った自動販売機
焼きそば"だけ"が美味しい中華料理屋
しょっちゅう釣銭を間違えるバイトのいるコンビニ
酔っ払って吐いた電柱
世界チャンピオンがたまに顔を出すボクシングジム
手をつないで歩いた公園沿いの道

過ぎてしまった時間
おれが置いてきた街

決して
決してあの頃に戻りたいとか
そんな風に思っているわけではないのに

決して
決して戻ることのできない時間が
やたらと愛おしく思えて

そしてバスは
走り始める


自由詩 京橋にて Copyright 大覚アキラ 2005-03-23 01:03:14
notebook Home 戻る  過去 未来