隣の工場の煙突
こたきひろし

隣の工場の煙突から出ている煙に悪臭と目の痛みを感じる。
いったい中で何を作ってるんだ。

パートで働いている食料品物流センターの敷地内の道路は路面の照り返しが半端なくて、一日中屋外で作業している私はまるでバーベキューだ。
そこにいるだけで過酷なのに労働しなければならない。
定年後は安らかに余生を過ごすなんて夢見てきたが、現実はかなり厳しい。
定年前に比べて収入は半分以下になったが、家の借金はまだ終わらない。
ギリギリの生活を強いられている毎日だ。
結婚当初から体が弱くて頭痛持ちの妻は家計を助ける為に何度か勤めに出たがその都度続かなくてほとんど専業主婦だった。と言っても、家事洗濯掃除にたけていたわけでもなかった。
なのに別れずに何とかやって来れたのは彼女が娘を二人産んで育ててくれたからだ。
下手をしたらその一語に尽きるかも知れない。
上の娘が幼稚園に通い出した頃、それまでの借家住まいから家を買いたいと言い出したのは彼女の方だった。二人の子供を抱えて一杯いっぱいの生活の中で私一人の稼ぎでは到底無理だと反対したが、彼女は言い出したら聞かない性格で、その時に自分も働くからと強く約束してくれたが私は内心無理だと思いながらはっきりとそれを口に出来なかった。
彼女は自分の親に頼んで援助をして貰うからとも言った。
現実に義理の両親は頭金を出してくれたが、私の方は父親に相談の電話をしただけで一方的に切られてしまった。

あれから二十数年。娘二人は成人し何とか家も維持してきた。
私が定年で職を失い精神的に追い詰められた妻は一時期おかしくなって心療内科を受診したが、上の娘の経済的な援助を受けて何とか立ち直ってきた。

私に詩など書いてインターネットに投稿している余裕など有るわけがないのが実情だ。


自由詩 隣の工場の煙突 Copyright こたきひろし 2018-06-27 07:59:13
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