潤い
本田憲嵩

メーターが振り切れそうになる
一秒当たりの時間の価値だけが赤く高騰してゆく
それはたとえ休日とて例外ではない


はずなのに
具体的に何をしてよいのかさっぱり分からない
いつもの休日


夕方に近い
昼下がりになって
ようやくウォーキングがてら徒歩で外出する
歩道沿いの
石垣のある民家の庭から
撒かれるホースの水


それが服に少しかかる
花と樹木のためにも
さして気にしないようにして
乾いた歩道を再び歩きだす


(生活には潤いが必要
(でなければ心が乾いて枯れてしまう
(そして、栄養も


別の民家の庭では
家族が賑やかにバーベキューをしている
その赤い肉の焼けてゆく匂い


すき屋に行った
牛丼屋で頼んだのは茶色い肉類ではなく
赤いマグロのユッケ丼
独特の甘じょっぱいタレが効いていて
とても美味しい
そこへさらに醤油をかける
とても濃くて美味しい


身体と心が欲しているのか
「生きている」、
という確かな証を


生卵を土星のようにのせてから
ぐちゃぐちゃにかき混ぜる
そこへさらにもう一度醤油をかける


コップの水をがぶがぶと飲み干した
その間
時間にしてわずか十五分足らず
店を後にする


爛れるような夕焼け
のどが渇く



自由詩 潤い Copyright 本田憲嵩 2018-06-05 01:44:50
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