ルナーボール
本田憲嵩

二人だけの休日という貴重な一房の葡萄の果実を、ビリヤードの
褐色矮星として分かち合う。果実は混沌と混乱の銀河を巡って軌
道の覚束ない彗星となり、沈黙の時間を巡って遂には規則正しい
乱軌道の惑星となり、終いには枠外という宇宙の最果てを跳び超
えてしまった。


『ルナーボール』
というタイトルのゲームのことがなぜか思い出される。まだコン
ピューターの技術が今ほどに進歩していなかった頃に開発された
憂鬱なゲームソフトのことだ。どこか茫洋とした、シュールで索
漠とした雰囲気と近未来的な音楽とが印象的な、僅か8ビット程
の家庭用ゲーム機ソフトのことがなぜか思い出される。


戸外へ出ればいつの間にか葬送のようなどことなくしめやかな夜、
満月は夜空にぽっかりと浮かんでいる。冷ややかな月光にコーテ
ィングされて何も語らない彼女の後ろ姿の、それはそれは豊かに
波うつ黒髪はなんだかとても艶やかで、それはそれは美しかった。
窪んだ土の中に溜まった泥水には果実がゆらゆらと魂かなにかの
ように映りこんで。



自由詩 ルナーボール Copyright 本田憲嵩 2018-05-31 05:31:09
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