瓶の底
アンテ

ガラスの瓶が
たくさん手に入ったので
縁側に
一列に並べた
ふちを棒でそっとたたくと
ひとつずつ
ちがう音がした
家じゅうをごそごそして
ひとつ目の瓶を
薬でいっぱいにしてみた
ふたつ目の瓶は
貝殻でいっぱいにしてみた
みっつ目の瓶は
ピアスでいっぱいにしてみた
よっつ目の瓶は
砂でいっぱいにしてみた
いつつ目の瓶は
葉っぱでいっぱいにしてみた
むっつ目の瓶は
灰でいっぱいにしてみた
ななつ目の瓶は
鉛筆でいっぱいにしてみた
やっつ目の瓶は
ビー玉でいっぱいにしてみた
ここのつ目の瓶は
水でいっぱいにしてみた
最後の瓶に詰めるものは
どれだけ探してももうなかった
顔を近づけてみると
ひゅうるる
音が聞こえた
瓶の底にだれかが座っていて
不思議そうに
こちらを見上げていた
唇がほほえんで
なにかを言った
伝えなければならないことが
あるはずなのに
思い出せなくて
目をそらすと天井の模様が視界を流れた
ひゅうるる
音が聞こえた
ふり返ると
ガラスの瓶が縁側に並んでいて
どれもみな
空っぽの口を開いていた
棒でそっとたたくと
ひとつずつ
ちがう音がした
とてもいい音がした




自由詩 瓶の底 Copyright アンテ 2005-03-19 17:39:32
notebook Home 戻る