ひとつ みちびき
木立 悟
死ななくてもよかったたましいに向けて
打ち鳴らされる打ち鳴らされる鉱と金属
棄てられては増す つばさ けだもの
重なる紙のはざまの光
紙の上に浮かぶ珠
ひとつ持ち上げ ひとつ潤す
常に濡れる手首
常に濡れる顎
内を外を流れるかたち
とうに終わっているのに
さらに終わろうとする日を
過ぎては帰らない光
上にしか行かない階段に
無数の釘と木箱が散らばり
まだ薄明かりのある下方から
誰かが誰かを呼びつづけている
絵の具のにおいのお湯を呑み干し
やっと見えてくる未来には
人のものではないにぎやかな地
冬の夜のこがね
あてどなく よるべない幸福
灯の無い径のつづき
雪が雪を歩む音
雨とともに降る牙の光
水たまりに起つ灰の城
迷う手をひとつ導いてゆく