嘘の種
ただのみきや
伝えようとした
なんども 白い指先が
――風のすべり台
すばやくくぐって
冷やかさ
保てず
触れるや否や
潤みほどけ
数えきれないくらいに千切れ 空を覆う
わたしたちは
わたしという
何者かの眩暈
翼を持たないわたしは落ちて往く
この性の 重力の中心 あなたへ
火を持たないわたしはあやされる
欹てて あなたの胸の 地獄の業火に
そうして夢中の水脈へと生まれ変わる
汚濁の限り 地に生きて(死んで)
*
顔のない真実を後ろから抱きしめる
質問はしない 顔は与えない
ただ ダニのように 血を啜るだけ
「永遠」がアニメーションなら
いったい幾つセル画を描けばいい
「一瞬」の背景を幾つ切り取ればいい
*
言葉は全盲の絵筆
印象の照り返しと陰影に
意味の輪郭線を欲するのは
燃えるような錯覚の揺らめきを殺してまで
通じたいからか
通じて初めて
断絶と孤独を知る
錯覚は間にあるのではなく個々の内にある
火の蝶の羽ばたき
流れ続ける静止
かつて一枚だった鏡の欠片たちが
歪みを孕んで
二度と一つになることもなく
孤立の果て
齟齬を繰り返しながら
互いを求め
バベルの塔の周り
日時計の文字盤のように
輪になって踊っている
誰かの頭骨に躓いて
拾い上げては涙で拭い
霊媒師のように感極まって
腹話術師のようにただ言いたいことを言っている
偽の免罪符を胸に秘め
どこかに本物があるという
甘いキ印の巻き紙で巻いた煙草みたいに
自らを消費する
煙の白へ
無の青へ
*
あなたに覆われて
眠る 白く
わたしは死を食らい命を孕む
鍋で煮て
朽ちさせる
物事は
互いにとって代わる
冷たい指先が
わたしの上でほどけ
心臓を流れる濁った河
夢見がちな死が
ぬれた大地を渡る が
足跡も足音もない
全てを支えているようで
その実己すら支えていない
宙に浮かんだまま
わたしはわたしを生まなかった
わたしはわたしを創らなかった
枯葉の小舟で
毛虫がせいいっぱいの
背伸びする
大きな魚が上がって来た
大きな鳥が降りて来た
太陽が笑った
月が切りつけた
毛虫はもういない
毛虫はまた現れる
どこかに嘘はあり
どこにでも嘘はある
種のように抱いている
深くも浅くもない
どこか 隠された
火と水が
睦まじく
作用しあうところで
《嘘の種:2017年11月15日》