アフリカの仮面の下で
ただのみきや

アフリカの仮面の下で夜が流れていた
どぶ川で切った足から火の霊が入ると
真っ赤なオタマジャクシが身動きできないほど
か細い血管を遡り小さな手足を生やして泡立った
新月と時計の針が向かい合う
押し黙ったまま酒を飲む男たちのように
薔薇のように内から捲れる痴態
隠すこともなく聖母たちは泣いた泣くことで
命をカラカラに注ぎ出し飲ませようとした
旅行者は異国の神のようにいつも遠くから
花のような悲しみを編んで日記に記す
誰もが鳩を抱くような年ごろのまま
カビの生えた心臓のままブロンズ像を残そうと
自分の姿がいつかの少年になる
褐色 今は雪のように白 もの云わぬ天使
だがその瞳の虚空こそ蝕まれた良心の投影
皮膚の下に黒い地図が完成するまで
重い水の足音 異言のように
いつまでも理解のない噎せ返る腐った情熱の
冷め切ったスープからぶるぶると震え
夜明けのように白ばんで行く眼球の
声がいつまでも声にならない夜のまま
羽虫が群れる電球の下にさらけ出された深い陰影
人形みたいに美しくもなく膨れた腹に額を乗せ
司祭よりも呪術師よりも医者よりもしたり顔で
――書き記すこの顔こそ刑罰
永遠に剥がれはしない肉厚の刑罰
十字架や金のカフスのようにどんな時も
光さえあれば輝きを投げ返す文字は冷たい
知的になればなるほど迷信は潜在力を増し
縋る手は水に映る影をかき混ぜて 笑った
ある朝のヒステリー 母乳と糞尿の匂い
ルールは決して明文化されない
そこら中で装っている偶然の的のように
ひとつの死体が満ちては欠けて往く
心臓は赤の他人おまえの手の中にある




           《アフリカの仮面の下で:2017年9月30日》










自由詩 アフリカの仮面の下で Copyright ただのみきや 2017-09-30 21:54:22
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