しずく はじまり
木立 悟





牢であり城である街を浪が洗い
壁から瀧があふれている
奴隷の子と皇女は手を結び
錆びた真昼の水たまりを踏む


呼吸が
忙しく他者を連れ去る
水の底の 舌のようなもの
声だけを残し 消えてゆくもの


ひとつ増える指で
何も無い場所を掴み 引き寄せ
水と光の種を蒔き
野と街の境いめを描いてゆく


多数の肢の内の一本に
水がしたたり落ちている
問うもの 問う事 問う時により
応えの色は異なってゆく


窓と窓と窓のむこう
有って無いような硝子の夕暮れ
夏に刺さる水を透し
景色は景色の分身を視る


光のはざまに残る夜
朝と昼の終わらない指
奏で 奏で
滴を破かず持ち去る奏で


何も無い場所が風に震える
ふたつ増える指は空に触れ
結ばれた手に
終わる季節に帰途を降らす






















自由詩 しずく はじまり Copyright 木立 悟 2017-08-28 08:21:14
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