fool‘s gold
ひさし

ビッコは線を引くようにゆっくり歩く
道端に座り 静かな笑みをつくって休む
ビッコのまわりは街の喧騒とは無縁だ

この街には一年中実をつける樹がある
どこにいても鮮やかな赤やオレンジが目に入る
たとえば教会の入り口に
たとえば小さな女の子のいる家のベランダに
たとえば図書館脇の公園の隅に
たとえば老婆がひとり暮らす家の庭に
街の人々は少なくとも日に一度 樹の前を通る
だが誰も気になどしない
名も知らない
ここだよの樹ってんだ
一度ビッコのつぶやきを聞いたような気がする

雨に負けて
風に負けて
暑さや寒さにも負ける
それでも 歩く
びっこを引きながら
一日中歩く 座る
歩くってのは少し止まるって書くんだ
ここだよの樹にもたれ 独りごちる
誰にというわけでなく 自慢げにほほを緩ませる

ビッコは線を引くようにゆっくり歩く
その線はぎこちなく悲しげだ
でもボクたち野良は きれいだなぁと思うんだ




自由詩 fool‘s gold Copyright ひさし 2017-08-15 03:08:48
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