赤目の夏
為平 澪

透けすぎたナイロン袋に絹豆腐のラッピングパックの角が刺さって破れ
る。都会の余波が、障子のすすけたような町にも、ずっしりやってきた。
私の伸びる指に、深く彫刻刀で削り取られた縦長の皺とそれを映す充血
した目。赤目が飲み込んできた都会の水は、私の身体を浸し続け、不純
物と一緒にパックされたこの塊の、はみ出したい鋭さにも似て、また、
目を赤くさせた。

                ※

充血した目玉たちが口も聞かず蛇に次々と飲み込まれ腹の内側、内側に
押し込められ追い詰められる早朝。優先座席で目を閉じたふりをするア
ロハシャツの若者を赤目が刺し、俯いて座るセーラー服に、舌打ちを繰
り返す。ほんの少しの隙間ができるとボヤがおこり、発火する炎を目は
映し続けた。目の前の大きな咳払いは、この夏の終着駅まで続くだろう、
と思うと、赤目は殺意を抱いた。新聞で隠された口元の企みを、上目使
いで見抜く、また、充血した朝の日。

赤目が黙々とそれぞれの殺人計画を目に宿す頃、また、新しい赤目が飲み
込まれ詰められ、揺れ動いて何かがぶつかって、ひび割れる。パックされ
た、一発触発の肉弾戦の中で、誰の目に窓の外の景色が見えていただろう。
誰の目に朝日があっただろうか。

人と人との間に流れる血は冷房されたまま、どんどん無言になり、共通の言
葉は崩れ落ち、充血の目玉が大量生産され、スマホの電波だけが喋り続ける。
眠れない夜から、私たちは疲れた朝の縁に立ち、夜に向かって出勤して迷路
に潜る。

凍えた目玉たちは血走って腐っていく、玉子の未来。
詰め込まれた怒りを宿して、私たちはどこに行きつくのだろう?

冷ややかな蛇行を繰り返す蛇に操られながら、玉子は朦朧と溶けて、一つずつ
腐っていく。黒目の幼子があんなにも憧れていた新宿。ここにきたら新しく何
かを、生むはずだったものが、赤目の頃には殺されていく。

                 ※

透けすぎたナイロン袋からはみだした、絹豆腐のラッピングパックが指を突き
刺すと、指先からぷっくり膨れ上がる赤目が生まれる。それを見つめる私の目
が、また赤く腫れあがり、詰め込まれた猛暑が冷ややかに、体の中を蛇行する。


自由詩 赤目の夏 Copyright 為平 澪 2017-08-13 21:31:17
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