夕方、きみをみつめるとき
草野春心

  ビニル箱がバイオレットに並び・はや私は夜に気づく
  (高円寺南三丁目の夜)
   バイオレットにビニル箱が廻り・はや私は夜に気づく
   (水晶体の所有する夜)
    ビニル箱がならび まわり・ふくらみ・尖りして
    (わたしに ゆるされた よる)

  *

  すべてそれらは
  すべて 視覚らにかんして
  幾層もの玉葱的トートロジーを連れてくる
  じっさい現代的な皮膜だ
  (私たちに気づかない)

  けれどもそれらは時をつらぬいて
  光る できごとたちの
  (親であり子でもある)
  グロテスクな 現在という
  なまの肉塊なのだろうか

  *

  夕方 きみをみつめるとき
  それだけでは終われないのだ
  遠い時間をなつかしむように  
  ことばのもつれを指でほどいて

  ハモニカの薄あかいしらべが
  わたしのなかのけだものを吠えさす
  畏れの横で邪気のない悦びがねむる
  未来にも或いは 過去にも
  わたしたちはもう居ないだろう

  ひとつの歌をうたうように
  心は 振るえながら近づいていく
  だがそれだけで終われないのだ
  夕方 きみをみつめるとき




自由詩 夕方、きみをみつめるとき Copyright 草野春心 2017-06-17 12:49:09
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