5年ライオン
藤鈴呼


浮かんだのは たてがみ色の雲
何処に と 聞かれれば 迷う事なく空と応える
けれど 否 ここは海 そういう表現だってあると
教えてくれた 一房のたてがみ色をした髪を持つ少女

一年目は全てが柔和だった
ミルク色に包まれて胃痛に悩まされる事なく
何なら胃袋を掴まれて嬉しいと悲鳴を上げたくらいだ
乳白色の世界に佇む 恍惚とした表情も
浮かべたことだろう

根っこのような絡まり具合で
時に噛み合うこともあった
甘噛みだから怪我はしないだろうと信じていたが
案外と強力な刃となった犬歯
犬と名が付く位だからとバカにしていたのがいけなかった

外側はミルク
母親の体温がぬるま湯のような角度で降り注ぐから
抱きしめられた刹那 ちょっとだけ安心したんだ
外見は未だ猫のような感覚
たてがみの「た」の字も未だ描かない
つるんとした肌触りは触れやすくもあったろう

草原の色はこんなにも鮮やかだったか
カーテンの色合いと何だかおんなじだ
太陽光線に包まれた瞬間の 光合成を思い出す
緑内障が原因だと思っていた
左目ばかりが目に鮮やかで 眩んでしまいそうだった
転んでしまいそうだった

原因は白内障
どちらかと言うと右側が落ち着いて見えるのです
今年は必要ありませんが 数年の内には手術が必要
そんなありふれたオペでは誰も驚きませんが
未だ胸がドキドキしている
目の前にライオンが現れたらお終いだと知っている
そのカウントダウンを始める頃合いか

夕暮れがくぐもっている
空にかかる たてがみの角度が悪いのだろうか
すっかり伸びた髭のように 愛惜しさを感じながら
そっと撫ぜる
今度は自分の指で
これが 五年目

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自由詩 5年ライオン Copyright 藤鈴呼 2017-06-12 21:23:23
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