かなしみ
前田ふむふむ

                

夕日が地平に没しても
なお 街々の西の空が
かすかに明るみをおびている
足を止めて
やや赤みがかった
仄白いものを
見ていると
無性に泣きたくなってくる
そのかなしみは
わたしの影だ
      
あの明るさのむこうでは
花も木も風も
声をあげることはない
生きた足跡を
否定されて
泥のように 沈んだものたちが
ふりかえっている
そして
冬のイチョウのように
ざわめきもせず
なんの弁明もなく
清々しいほどに 立っている
そのまなざしは
わたしの影だ

わたしが
傷口を嫌い
捨ててきたしがらみ
無為に
置き忘れてきた
ふるさとの声
手にすることが
できなかったものにたいする
後悔と羨望
それぞれの来歴が
なつかしそうに
手を振っている
その姿は
いつまでも
わたしを引きずっている

たぶん
父も母も
わたしもあそこにいるのだろう
そして家族と親しく
夕餉を囲んでいるのだろう

直視するには
神々しいものを
見送るような
測れない大きさになって
しかも穏やかだ
わたしは
夜の先端で
影になっている

戯れる
海の波が引くように
その
心地よさを
受け入れて
わたしという途方もない
ものから
逃れるために
わたしは
仄白い空を見て
涙ぐむのだ



   




自由詩 かなしみ Copyright 前田ふむふむ 2017-06-12 07:06:00
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