春の夕べのレイトショー
TAT
もしこれっきり何も書けなくなって
ただの一片の詩も落とさずに
残りの人生を生きてゆくとしたら
それはそれでその幸せを祝おうか
シンプルでプレーンな
素晴らしき哉人生を
鏡の向こうには今朝も
パッとしない男がひとり立っていて
俺はそいつを煽る
なぁ
お前はどこから来たんだ?
そしてどこへゆく気だ?
何故?
何のために?
ほお
で?
それで何がどうなるって言うんだ?
そうなってどうしたい?
ああなれれば幸せになれるとでも?
それが幸せなのか?
本当に?
行く方向を考えるより
仕舞い方を気にしだした方が
いい年なのかもしれないぜ
既にお前はさ
SNSの渦に呑まれながら
アイフォーンの嘶きに身を震わせながら
この間久しぶりに映画館で映画を観た
最終日だというのにガラガラで
でもスクリーンは
十代の頃のように
輝いていて
だがあれから20年だ
この傷の深さはどうだ
くぐってきた夜の数に押し潰されながら
スパッドもシックボーイもまだ生きていた
ユアン・マクレガーも
ロバート・カーライルも
老いながらもまだ走ってみせてくれた
俺はそれが嬉しくて
もう一度砕けた青い城を建てようと
踠いてみる夢を見る
数年も前に
「ガラスの城」という詩を
書いた時と同じコンビニの駐車場に
車を停めながら
そんな事をつらつらと想っていた
春の夕べに