群青
自縛ポエトリー/うい

夕暮れが濃い青であることに同意してくれた
ふすまの模様がウサギみたいだと言ってくれた
天袋のホコリを捨ててくれた
鎖骨から心音を聴かせてくれた
それでも
ずっと前を歩いてた
先にフッと居なくなった
知らない事ばかりだった

君との最後の日、最後だと知っていたら変わっていただろうか
コップに満たされたなにかの決壊を防げただろうか

いつも通り優しかった
いつも通りふざけていた
去り際に小さくなにか言った
聞き取れなかったふりをした

最後だと知っていたら

出来ることなら、よく晴れた日に、何でもない平日の休みを合わせて、赤い電車に乗ろう
出来るだけ明るい顔でニコニコしよう
ハイキングにいくおばちゃんに「ご夫婦ですか?」と訊かれて、恥ずかしくなるくらい大きな声で「もうすぐ」と言う。
おばちゃんは優しいから、疎ましく思ったりしないはず。
家路は腕を組んで歩く、なにもしてないのに夜になる。
どちらかが先に寝ないように、ずっと話し続ける。
紙パックのお茶が無くなったら、近所のコンビニへできるだけ珍しいジュースを買いにいく。
わざと喧嘩をする。 気づけば笑い転げる。
疲れるまでずっと笑う。 疲れたら一緒に眠る。
先に起きたので朝食をつくる。
朝食を作った方が午前中の王様になれる。
王様権限で君の好きな小説を教えてもらう。
すぐに買いにいく。
家で君が昼食を作っていた。
午後の王様に好きな音楽を教える。
王様にCDを貸す。
スーパーにいく王様は買い物の邪魔者

夕食は一緒につくる
明日に備えて早く寝る
闇に残されないように手を繋いで、呼吸を揃えて。

小さな声が聞こえる。(これはゆめだよ)
聞き取れなかったふりをした

目が覚め、寒さに気づく 隣には貸したはずのCDがある。
吸い寄せられるようにひらく
盤面に直接
「ありがとう、ごめんなさい、さようなら」
あのときから聞けないまま。

思い出す
こちらをみる黒い瞳
こぼれた涙
去り際に君が言った言葉

自分で都合のいいように塗り替えすぎた過去は思い出すのが困難になる
君がなんて言ったかもう、わからない。

空の群青色が強すぎて吐き気がした




自由詩 群青 Copyright 自縛ポエトリー/うい 2017-05-22 14:12:43
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