熱を帯びる
邦秋

一、方法

いつも使っている水道で手を洗う
思った通り今日は水が冷たく感じる

いつも聴くお気に入りの歌を流す
思った通り今日はその歌がスロウに聴こえる

日常と違う蛇口をひねれば
初めて聴く歌を耳にすれば
それはそういうものなんだと思うに過ぎなかっただろう

いつもの行為だからこそ
覚えた違和感が教えてくれること

今日は体温が高い


二、回想

予感は結果より随分先に訪れる
体温計にはまだ現れていない

首の内部だけが熱を帯びてくる
体温計にはまだ現れていない

「資格が無くても資格保有者よりしっかりしている」
そんな戯言は呆れるほどに苦しい笑い話だけれど

体温計にまだ現れてくれなかった体の熱さを
担任に訴えることができなかったもどかしさを思い出した

今日は体温が高い


三、拍動

歌がスロウに聴こえる現象は
拍動の速さと関係がある気がする

これが正であれば
僕が愛する疾走感のある歌は
彼にとってミドルテンポかもしれないし
甲高い彼女の声が
他人の耳には心地よいトーンなのかもしれない

「いいね」と共感し合っていたのは
同じ対象に対して違う印象を抱いていたのかもしれない

嗚呼いろんな考えが頭をめぐって整理がつかない、なぜなら

今日は体温が高い


自由詩 熱を帯びる Copyright 邦秋 2017-05-18 12:21:05
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