信号のない交差点
そらの珊瑚
わたしから切り落とされた白い手が
向こうで手をふっていたのです
交差点にはひっきりなしに
びゅんびゅんと雲が行きかうものですから
どうしても渡るきっかけが
一歩を踏み出す勇気が
つかめずにいるのです
爪先が悲しいくらいに重いのです
ああ風がとても強いです
いったん飛ばされてしまえば
マフラーだろうが帽子だろうが
ずしりと重い外套だろうが
鉛のような爪先だって
みんな雲が食べてしまうようです
ここはあまりにも渦中なのです
なぜ信号がないのだろう
おそらく
信号があっても役には立たないのかもしれない
雲は
信号が
読めない
読む気もない
誰にも
風を味方につけた雲を止まらせることは出来ないのです
しばらく ここで生きていくよ
まだ
おまえをむかえに行けそうにない
向こう岸がもうあんなに遠くて
さよならの代わりに、でしょうか
白い手はことさらに高くのびあがり
ひらひらと舞ってみせているのです