夜の辺
木立 悟





水から杖を拾い上げると
空気に触れて銃になった
水面に映る双頭の蛇
銃はやがて砂と消えた


路地のむこうが燃えている
火の他に照らすものは無く
誰も居らず
何の音も無い


川の上を
どこまでも歩いてゆくもの
塵や芥の花々が
止むことなく降りそそぐ


蒼へ向かう螺旋の径に
明かりがひとつ点いている
塩と砂から生まれ
洞へ洞へ消える鳥


菓子でできた街から
人はいつか居なくなり
波が砂糖だけを舐めつづけ
残りは陽の色のまま立ち尽くす


樹々と空を縫い合わせ
降るもののはじまりへさかのぼる
無数の染み 金緑の星
見るものの涙に吹き荒れる


水面に生まれ 沈むもの
斑らな揺らぎに滲むもの
毒は底に到くことなく
水草のように夜を映す





















自由詩 夜の辺 Copyright 木立 悟 2017-03-02 22:18:55
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