体内回帰
星丘涙

青の世界が
泡とともに
生れ落ちる八月

海亀の散歩が始まる
ぷかぷかと
海面を漂い
潮の流れに乗る

紺碧の空に
トビウオがダイブし
羅針盤を狂わせる

カモメは
ただ群れているだけでいい
それだけでいい

切り立つ岩礁が
深海に誘い
酸素を要求する

母の胎内に回帰するように
ただ 深く 深くおちてゆく

恐れることはない
甘えればいい
没入する 羊水に のめり込み
ひとつとなる

あたたかい
安心と 一体
それを奇跡と呼ぼう

深海にもぐる
どこまでも
息を吐きながら
恐れないで
ただ
没入するのだ

母性の海へ潜るのだ
恋慕う原風景の中へ
底の底へ
帰るのだ

誕生以前へ
憧れの故郷へ
暗闇と温かい愛の起源に
帰るのだ

たったひとりで
本当の深みへ
静かなる世界に
帰るのだ





自由詩 体内回帰 Copyright 星丘涙 2017-02-12 22:54:51
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