殻
うみこ
夏の裏には
ドーナツ色の神様が転がっている
つきだす痛みは粒になってこぼれ、
いくつも束ねられた足音が、校舎の隅で鬼火になる
モルタル製の壁の隙間で、
待ち合わせが継続され、
薄青き者と薄赤き者の透明な抜け殻が、
濃ゆい日と陰に区切られてうつむいている
清らかな音が残す下足場の冷やい感覚
幽霊の覚書のような風
地面に張り付いた影が、砂金の輝きに眩んで侵食を起こす午後
抉れた山肌が、剥き出された赤土を濃ゆく引き締めているが
あの肌の緊張が緩むと降りてくる夜
その夜山間の家々に灯る窓の火の向う
たくさんのあなた方が、手を傘にしてこちらをのぞきこんでいるのがわかる
僕からは、校庭の向うに現れた何匹ものコオロギが、蛍色の星になるように見える
赤土を抉りすぎると血が出てくると脅かされて
深い穴を掘ることを禁止された僕は
膝を抱えてじっとそれをながめている
車椅子のあの子も
耳の悪かったあの子も
いる
裏返った夏の事象は
蝉の蛹のような形を成し
いたるところで土中に入り郷愁の叫びを育てる
やがて夏の裏から生まれ出た者たちが叫び始めると
たくさんのあなた方は少し悲しく少し懐かしい気持ちになる
そのうちいくつかの者が子供らに拾い上げられ
輝く宝物を見つけたような笑顔を手向けられる