森のロンド
塔野夏子

燦 とひかりが降り
彼の中の森がめざめる
その肢体が
若枝であり
清流であり
薫風である彼の中の森が
その数多の瞳を
つぎつぎとひらいてゆく

きらめきをこぼしながら
鳥たちが飛びたつ
彼の中の森がにじみ出す
森のめざめに応えて
舞いはじめた彼の肢体から

樹々の葉たちは緑の音符
舞う彼の想いを奏でてゆく
樹々の間を縫うせせらぎも 風も
彼の記憶を 予感を
そのあわいから生まれる物語を
言葉のない歌で紡いでゆく

彼の中の森があふれ出す
燦 とひかりが走る
樹々の葉と せせらぎと 風と
たわむれからみあいながら

霧や虹の衣をまとい 交錯する透明な精霊たち……

ふいにひとしきり風が強まり
彼の中の森がほとばしる
樹々のざわめき 高まる瀬音
狂おしく舞う彼の肢体

――闇も 傷も
抱えたままでかまわない
そこから生まれいでたものが
やがて幾重にも枝を広げ
ひかりをいっぱいに受けとめるから

そしてまた風はやわらぎ
きらめきをこぼしながら
鳥たちが囀る
彼の物語の
はじまりつづけるはじまりと
終わりつづける終わりとが
いつしかうつくしい環になって
森のまわりを静かにめぐる




自由詩 森のロンド Copyright 塔野夏子 2017-01-07 22:59:14
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