塔野夏子

私に向かってはずっと閉ざされている扉があり
どうやら世界と呼ばれるもののほとんどは
その扉の向こうにあるらしい

私はここにいて扉を見ている
扉の向こうにいる人たちについて思いをめぐらす
その人たちはたぶん知らない
ここに扉があることを

私は知らない
何故私は扉のこちら側にいるのか
何故扉が閉ざされているのか

扉の向こうにいたなら
違う風に感じるだろうか
空の色 星の瞬き
風の感触 鳥の声……

     *

私は時折 扉の向こうへと
手紙を書く
誰が受けとるかは知らない
私は時折 扉の向こうから
手紙を受けとる
誰が書いたのかは知らない

     *

私は扉のこちら側にいて
私に与えられた世界を
できるだけ深く呼吸する
そして私の脆弱な神経が許すかぎりは
扉の向こうの気配も
できるだけ感じとろうとする

     *

その扉が閉ざされていることは
向こう側からの拒絶ではなく
むしろこちら側に身を置いていることに対する
祝福である

ただ閉ざされてあっても
私がそこに扉があると知っていること
それが扉であるということが
静かなひとつの意味である




自由詩Copyright 塔野夏子 2016-12-29 11:53:29
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