宛名不明
日々野いずる
誰がいるかもしれないダンスホールで
奥底を知っているはずの
あなたが無邪気にはしゃいでいるから
私は何にも言えなくなって
黙り込んでシャンパンを飲んでいるだけだ
音に体を揺らしもせずに
疲れ切った体を沈めたベッド
目を開けがたい微睡に微笑まれて
暖かく拘束された手足
眠気のくちづけが落とされ
意識が無明に向かっていく
体の表面を撫でていったすきま風が
遠くの地で渦捲いて土ぼこりを上げている
ちりと埃に取り込まれ薄汚れた手紙が
散らばる水たまり
行き先を溶かしてしまい
起きたときにきっと次の朝がきて
その夜に溶けた郵便の思いが宛先不明て還ってきて
ここからどこにもいかないでって言っている
手紙、読まれずに私の机に積まれて
供養の代わりに風化していき
いつかすべて、汚い、って捨てる未来
そしたら私は楽しくあなたと手を取り合って
ダンスを踊って、音に揺られていけるのでしょう
きらきらと色とりどりのライトで目を眩ませて
暗闇は一層暗く沈み
きっと振り返りもしない