銃を取れ(それがどんな感情だろうと)
ホロウ・シカエルボク








マーガレット色の街灯が
午前三時の路上で
墜ちた月のように佇んでいる
ジンの酔いは
俺のこめかみを
左から右へ真っ直ぐに射貫いて
思考がそこから全部漏れていく
そのくだらない詩を
見下ろしながら
たぶんそれが帰路だと思えるあたりを
ふらふらと歩いている
おそらくケーキの売り子か
サンタコスの女が
明かりの落ちたクリスマスツリーの裏で
時代遅れのブランドスーツを着た男と後背位でイタしている
まるで
安い酒のような愛だ
少し歩くだけで
簡単に手に入れることが出来る
港の方角でサイレンが鳴っている
きっと
コソコソと法を破る
おさない連中がヘマをしたんだろう
クリスマスにジョン夫婦の歌声なんか
聞きたいやつが居るのかね?
コカ・コーラのベンチに
ラウンド終了後のように座り込んで
酷い頭痛が去るのを待った
数少ない足跡が
その前を通り過ぎた
その足音たちは
およそ
イブの喜びに満ちたものとは思えなかった
まるで
どこかの部屋の暗がりから聞こえるモノローグみたいだった
(歩かなくちゃ、歩いて家に帰らなくちゃ)
心はそんな声を上げて
覚束ない俺を激しく急かした
頭の中でジョー・ストラマーが
湿気の多いシャウトをしてたけど
それがなんていう歌かまるで思い出せなかった
ジョーの方がキリストには似合ってるよ
異論があればお好きにどうぞ
こちとら
口先で生きてきた人間じゃないもんで
携帯にメールが入る
どうせイカレたダチだろうと覗いてみたら
一度だけ買物した洋服屋の販促メールだった
午前三時だぜ、どうかしてる
いまから買いに行けば開けてくれるってのか?
俺は立ち上がった
相変わらずふらふらしたけど
頭痛はマシになっていた
きっと
冷たい風にあたり続けたせいだ
そう考えると
とたんに寒くなって
風の当たらない道を探した
あんたは知らないかもしれない、まともな暮らしをしている連中は
二四時間のうちで夜明け前が
一番冷える時間だってことを
どんな季節だってそうなんだぜ
もうどんなものも見ようと思わなかった
ブルゾンのポケットに手を入れて
人気のない路地を俯いて歩いた
そうしているといろいろな年代の
クリスマスのことが思い出された
幸せな出来事もあったし
砂を嚙むような出来事もあった
でもそれもこれもみんな過去のことだった
喜怒哀楽が幸せの基準じゃなくなったのは
幾つぐらいのころだっただろう?
きっと自分の歳を
すぐに思い出せなくなってきたころからに違いないぜ
なあ、ジョン・レノン
あんたのラブはきっと
べっとりとした涎にまみれているんだろうな
蓄積した怒りと
悲しみが
あんたのラブをそんな風に仕立て上げたのさ
俺は知ってる
あんたの歌はそんなに聞いたこたないが
そういうあんたの在り方はべつに嫌いじゃない
だからヨーコだって
あんたの死体に嘘をつかせ続けてる、そうだろう?
だけど
ワー・イズ・オーバー
こいつは
響きのいい言葉だよな
だけど
午前三時の人気のない路上で
俺だって
戦争を続けているんだぜ







自由詩 銃を取れ(それがどんな感情だろうと) Copyright ホロウ・シカエルボク 2016-12-24 23:20:10
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