左手からオアシス
為平 澪
魂が彼女の肉体を超えているのに
なぜ人は彼女の囲いばかり 目にして嗤うのか
動かない右手に握り拳を置いて 左手で書いた文字より黒いのは
右手がやすやすと動く人たちの、コトバ
自由とはとても高みにある悦びと同じくらいの不確かな不安だと、
空に消えいく白い鳥のような覚悟を あなたは羽ばたかせる
あなたを子供に向き合わせたもの
昭和の赤いチューリップ、かごめかごめの籠の鳥、うつむく子供や
古びたギター音、黄ばんだピックを持った男の背中や唇
車椅子の上はいつも晴れ渡って 寂しい自由が乗せられているのに
あなたの頭を叩く人、あなたの頭を押さえる人、
生活指導者が考える献立をあなたの頭にかける人、
あなたの夢は 空に放った白い鳥
異国に生命革命の卵を降らせ 新大陸の国旗に花火模様を描かせては
その爆音で人々を 眠りから揺さぶり覚ます
車椅子にみどりの言葉は、芽吹き、息吹き、育ち、
大河の瀑布に迸る水たちは かたくなな石頭たちを丸く削る
あなたは昼間に笑って 覚めない夢を描きつづけてく
その先に、オアシス。
「オアシスよ、と呼びかけて、オアシスは振り返る」
今、空に消えた白い鳥は甦り、どこまでも大空を駆け上がる