心象風景一 きみと
田中修子

1.
ふるい
ふるい人々……

2.
赤い水の中でうずくまる胎児、きみだ

3.
分厚いガラスに閉じ込められて
ゼリーのような水色の
重苦しさの中

少年のきみは自分が苦しいことに
まったく気づいていないようだが
重圧で顔が
ベッチャリとひしゃげている

4.
真っ黒い夜だ
ものすごいように
星がきらめいている
赤、青、白、金に銀

それなのに
制服を着たきみは
いたみやいかりをこらえるような顔で

宝石のひかる空を
表情のない目で
みあげている

頬をさすろうにもあまりにも遠い過去

5.
だれも生きられないような熱せられた砂漠を
ガイコツのようにやせほそり
足を引きずりながら歩いているきみ

数十年誰とも喋らず
かわききってひん曲がっている
くちびる

ふと砂漠の中に
澄んだ青い
なんにもけがされないような
ちいさなちいさな泉がみえ

そのなかで君がわたしに
抱きしめられていた

ふたりのくちもとに澄んだ笑み
足元から水が
とうとうと
あふれてわいてはとまらない

「泉のわいたのは俺があなたに抱きしめられた日」


自由詩 心象風景一 きみと Copyright 田中修子 2016-12-09 12:37:36
notebook Home 戻る