恥ずかしい日常
水菜

一度つめさきを折ってしまいました
とても大事なつめでした
つめのかけらをじっとみているとつめを折ったときのことをおもいだします

なんの気なしに、ワインを一本空けました
そういえば昨日は2本ワインを空けたのでした

安い白ワインは辛口でそのまま喉から血が出れば良いと願っていたら願いを叶えてくれました

折れたつめ先は、とてもすっきりとした容貌をしていました
人の顔でいったら、あごのラインがシャープになって頬骨は直角でした 

折れたつめをくるくるまわして赤いはなびらの上で逃避行させました

はなびらがやわらかくつめを包むときが止まりました

折れたつめは、おくびょうでねむることを嫌がりました

くらい闇に引き摺り込まれることをのぞんでいる風でもありました

しらないでよいときをオルゴールと時計台がじゃまをしました

それはしらなくてもよいことの筈でした

お節介でそばかすで黒目がちな目をしたときがじゃまをしたのでした

まだうまく音を出せないオルゴールは潤んだ瞳に音をとじこめていました



あかちゃけたくるみ割り人形は、赤ワインの海に航海へいこうとこころみていました

そう赤ら顔でおちゃらけたときにはおぼれていました



いくにんもの大人たちが、こころみてはおもいだせない音にくるしんでいました

シンがないんだよ

しろいわたがとびでて、カラフルなピンクでいろどりされたぬいく"るみのライオンが下をむいたとき 

逆回転したうちゅうが
白いタキシードをぬいく"るみのライオンにプレゼントしてココナッツがお辞儀をし、うやうやしく胸元に赤いばらをとめたとき

翡翠色のぶと`うが涙をながして

逆再生をこころみたときそこはぶど`う畑でした

たいせつに育てられた翡翠色のぶと`うたちはとなりのぶどうと競ってばかりいました

ぶどう畑の主人が、よしよしとなでてやるとぶどうたちはよりいっそう輝きを増したのでした

ぶどう畑の主人が、柔らかなメロディをくちづさむと ぶと`うたちはよりいっそうたのしげにこころ弾ませたのでした



つめを折ったのは、そんな楽しげなゆるやかな午後のとき

すみずみまで柔らかな風が満ちみちて土の匂いが舞っていました

大人たちは、苦労して、音を忘れて

翡翠色のぶと`うの葉のかげに、 そっと置いてきたのでした



恥ずかしい日常は、そうして過ぎて行きました

大事なつめ先を折ったまま


自由詩 恥ずかしい日常 Copyright 水菜 2016-12-06 02:51:47
notebook Home