Blood on Blood
ホロウ・シカエルボク



血管が最も交差するポイントで血流は行きあぐねていた、わだかまるものたちが新しい言葉を産み落とす、すんなりと流れないものだけが真実だ、俺は疲弊して仰向けに寝転びながら…その真実だけを認識していた、そのまま眠りたいのかそれとも起き上がりたいのか判らぬままに時間だけがカーレースのように走り抜けていく、俺はまるでヘアピンカーブのそばで打ち捨てられた擦り切れたタイヤのように、そのすべての現象を受け入れている、コンディション―ただ横たわるものの内奥で蠢くものを果たしてそう呼べるならだが―自己の奥深くに潜む確信に近づこうとする行為になんてそんなものは関係がないのだ、肉体が日常の中で摩耗していようともまるで昨夜の夢を突然思い出すみたいに脳裏に触れるものはあるのだ、そんなことは出来ないと断言するのは、きっと生身を信じ過ぎるものたちだろう…停滞する血は溜まり、血管を膨れさせ、その収縮に乗せて強烈な勢いで発射される、それは脈拍をおかしくするかもしれない、だけど、それはまさしくいくつもの分岐点で声なき叫びをあげる俺そのものだ、俺は脈動によって綴っている、そんなメカニズムが理解されようはずもない、他人の脈拍のリアリズムなど誰に理解出来るだろう?ではなぜこうして言葉は生まれていくのだろう?簡単なことさ、それは、共感や、理解や、共有や、知的欲求のために存在するものではないのだ、理屈抜きでそれを受け入れることの出来る連中のためにこうした文脈が存在する―俺は血を言葉にする―いいかい、これは例えば、俺の手首を切り落とした時に流れる血液と同じリズムだ、俺が自らの首を描き切った時に溢れてくるものと―同じリズムだ、それが自分の書いたものであれ、あるいは他の誰かが書いたものであれ、俺が求めているのはそういうものだ、それはきっと俺だけの欲望ではないはずさ…睡魔はその妨げにはなりはしない、現に俺はいま自分が何を書いているのか正しく理解してはいない、だけどそれは進行される、それは俺の意思とは関係がないものであるからだ、だがしかし、ある意味でそれは俺そのものに違いない―物理的な意味以外で通過しない感覚だ、俺が俺の魂を呼び起こして行う自動書記だ、俺のみの降霊術―俺は指先を動かすことだけに専念して、そこから何が生まれるのかということを今この時知ることは出来ない、それは決して同時進行しない、いや、ある意味でそれは…深層心理ですでに知っていることを掘り出しているだけなのかもしれないが―俺が知りたいことはいつでも俺の奥底にある、それが果てしなく生まれてくるからこうしてキーボードに立ち向かう、俺は俺の首根っこを引っ掴んで晒しだそうとしているのだ、もっとも奥深いところに居る俺を引きずり出さなければならないのだ、こうして書き始めてから、俺はずっとそうしてきた、そしてこれからもそうし続けるだろう、それ以外にこうしている意味などないのだ、夜が深くなるにしたがって欲望は鎌首をもたげる、俺はそれに突き動かされて―おそらくは自分に自覚出来ない自分に操られて―最初の一文字を打ち込む、それが最後の一文字とそれほど離れていないならそれで正解だ、俺はおそらく正しく物事を進行させている…俺の血流の速度が見えるかい、俺の血流の温度が判るかい、俺の血管は瞬時に膨れ上がる、そうら、また新しい思考が生み出される、言葉はここにある、言葉はここにある、何も嘘はつかない、だけどこれが本当かどうかは俺にだって判らない、正直さと真実とは実はまるで性格の違うものだ、極度に絡み合ったラインが限界を超えたときに一本に見えるみたいに―知らない、知らない、何も知らない、自分の知らないことを語らなければ意味がない、俺の現実、理性、感覚―あるいは痛覚かもしれない―そんなものをすべて超えたなにかでなければ、こうして弾き出す意味などまるでないのだ、なあ、これは俺だけのものかい、それとも俺以外の誰かにも理解出来るものかい、それはちょっとしたお楽しみでもある、俺のためだけに描かれるものが、誰かのために存在する理由になることがある、そういうのって判るかい、それは不自由な肉体を越えた先にあるものだ、俺はそういう思いを幾度も経験してきたよ―俺にとってこの衝動はこの時だけのために存在するものだ、日付変更線が来る前に片づけてしまわないといけない、一度目を閉じたらきっとまるで違うものに変貌してしまうぜ、一息で書き上げるんだ、なぁ、あんたになら判るだろう、俺に血が流れているってことをさ―。


自由詩 Blood on Blood Copyright ホロウ・シカエルボク 2016-11-19 22:04:10
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