泥棒の紙芝居
5or6

日曜日の公園で紙芝居を読んでくれるおじいちゃんがいた
聞いたことも見たことも無い、不思議な話で、子供達にはあまり興味が湧かないらしく、大半は遊具や砂場で遊んでいた
そんな中、一人だけ目を輝かして聞く少女がいた
少女は引っ越してきたばかりなので友達がまだ居なかった
寂しさをまぎわらせる為だったのかもしれないが
おじいちゃんの話し方と不思議な話に興味を持った
物語が終わる寸前、突然、紙芝居のおじいさんは倒れた
少女が叫んだ
大人達が駆けつけて病院に運んだが手遅れだった
心臓マヒだった

目の前でおじいちゃんが亡くなり、少女はショックで塞ぎ込んでしまった

親は部屋から出ない少女に悩み、疲れて寝てしまった
そこに泥棒が忍び込んだ
泥棒は高そうなものを袋に詰めて
窓を開けて寝てしまった少女の部屋から抜け出そうとした
泥棒が窓に足をかけて外に出ようとしたとたん
少女は起きてしまった
今にも泣きだしそうに見る少女に泥棒は笑顔でこういった

さぁ!お話をしにやってきたよ~

なんとか誤魔化して少女の口を黙らせようと近づいていたら少女が急に目を輝かせて笑った

そしてその気持ちは声になって呟いた

おじいちゃん
お話の途中で倒れたからびっくりしちゃったの
良かった元気になって
またお話を聞かせて

泥棒は明らかに自分の顔を知っているように話す少女に聞いてみた

おじちゃんを知っているのかい?

すると少女はキョトンとした顔で答えた

紙芝居のおじいちゃんでしょ?

泥棒は持っていた袋を落として愕然とした

親父はまだ紙芝居をやっていたんだ。と

記憶が走馬灯のように蘇る

クラスの皆に紙芝居で飯を食べてる奴だとイジメられてから父を憎んだ少年時代
何回も紙芝居の絵を破ったこともあった
そして家を家出して何年か経ち
金が無くなり路頭に迷い
生まれた街に戻ってきた彼は泥棒になったのだった
この街に復讐してやる
その思いで何回も空き巣をした
そして今日も、何気なくこの家にやってきたのだった

親父、いや、私は倒れたのかい?

少女に尋ねると不思議な顔をして

そうよ、死んじゃったとお母さんが言ったの。
ねぇ、早くお話聞かせて

突然知った父親の死に泥棒は動揺するのを抑え、幼い頃に聞いた父親の話を思い出しながら少女に話した

話していくと父親の思い出が走馬灯のように頭の中で浮かんでは消えていく
物語の最後で泥棒は涙が溢れた
それは子供が父親に会いに行く話だった

少女は胸に遣えてたものが消えたのを感じた

そしてこう言った

おじいちゃん、お昼の時よりもお話下手だったけど面白かったよ
またお話し聞かせてね

泥棒はそうか、と照れてからお詫びの印だと袋を少女にあげた
いいかい
いい子にして寝ないとこの袋は萎んでしまうよ
だから見るのは起きてからだ

そう泥棒は少女に言い聞かせて窓からいなくなった

少女は言い付けを守り、袋を見ないまま眠りについた

そして泥棒はそのまま交番へと歩いていった
足取りに迷いはなく出所してから子供たちに伝える紙芝居の物語を考えながら

泥棒は夜の街を歩いていった

おしまい


自由詩 泥棒の紙芝居 Copyright 5or6 2016-11-18 05:48:14
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